キャスティングにおけるスピニングリールの性能差について考えてみたい。ベイトリールと異なり、スピニングの場合はベールを起こすだけであとはスプールからラインが勝手に放出されるので、リールとしての性能とキャスティングは無関係のようにも思える。リールを評価する主な要素、パワー、スピード、回転性能、ドラグなどはすべて、ベールを戻し、巻き上げに移行してから発生する問題である。ではキャストするだけならどのスピニングも同じなのか、という疑問を解消すべく行ったのが上のテスト。エメラルダスEX AGS83MH-Tを2本用意し、先代モデルのエメラルダス2506と2012年モデルのエメラルダス2508PE-Hをそれぞれセット。もちろんライン、リーダー、エギは同じものを使用した。結果、平均で48.5m対44.5mと実に4mの差をつけ、2012年モデルのエメラルダス2508PE-Hが圧勝した。【資料1】
この2つのリール、自重もほぼ同じ、またオシレートの仕組みやストロークも同じ、というように飛距離に関する条件は変わらないようなのだが、スプールのエッジ形状が違っている。旧エメラルダス2506はABS、新エメラルダス2508PE-Hは最新バージョンのABSIIを搭載している。ABS(アンチバックラッシュシステム)とは、スプールの巻き取り面を逆テーパーにしたダイワ独特のテクノロジー。この形状にすることで、スプール前方のラインが押し出されにくくなり、バックラッシュを筆頭とするライントラブルが激減した。ABSII、巻き取り面の形状はそのままに、放出されるラインが当たるスプールエッジ形状の見直しが図られている。これによってキャスト時の抵抗が軽減した。【資料2】 ABSとABSII、表面上の違いはわずかなものでしかないが、これで今回のテストでは飛距離が1割近くも伸びたのだから、その効果は推して知るべし。
さて、飛距離アップだけを単純に狙うなら、方法はいくつかある。まず長くてパワーのロッドを使うこと、投げるエギのウエイトを重くすること、そしてラインを極端に細くすること。しかし、ロングロッドもヘビーエギも、限度を超えるとゲームとして成り立たなくなる。現実味があるのは細糸作戦。近年、PEラインの製造技術は飛躍的に向上し、極細クラスでも十分エギングで使用できるようになった。しかも、細糸の効能は飛距離だけではない。ラインが細くなればなるほど水中での抵抗が減るため、エギのフォール姿勢やスピードが安定、シャクリの伝達力がアップ、アタリの感度が上がる、などなどエギンガーにとってのメリットは多い。ただし、いいこと尽くめとは限らない。細糸に限らずPEライン全般にいえることだが、その糸質の特性上、バックラッシュのようなライントラブルが起こりやすく、一度起きれば解消できないようなトラブルになることが多い。ところがこのトラブルはスプールの巻糸径を適正にすることで、かなりのレベルで抑えられる。飛距離を落とさずトラブルも低減させるための、さまざまな確認テストを行いながら設定したのが最適巻糸量の設定ラインである。2012年モデルのEXISTとエメラルダスには、このラインがスプール内側に入っている。【資料3】